『アップダウン・インサート』 中編

(上段)

「それじゃあ、頑張ってくるんだよー」
 上村上平はひらひらと手など振りつつ、ベッド下段へ降りていく妻を、変に間延びした声で送り出した。隣では下田家の奥方が、
「ヘンな事しちゃダメだかんね」と威勢よく夫を見送っている。
 やがて配偶者の送別を完遂した上平と下恵は、そそくさとベッドの真中へ戻って、どちらからともなく溜息を吐いた。
「何だか、変な成り行きになってしまいましたね」
「……とんだご迷惑を。本当に申し訳御座いません」
 下恵が申し訳なさそうな面持ちで合掌して、深々と頭を下げる。面食らった上平は、思わず相手の肩に両手を置いてこう告げた。
「あの奥さん、そんなに気になさらないで下さいよ。こういうとき助け合ってこそのご近所づきあいじゃないですか。そう気を張らずに、ここを自分のベッドだと思ってくつろいで下さい」
「……じゃ、そーします」
 上平の言葉が終わるが早いか、下恵はだらりと姿勢を崩し、
「ふううぅ」と珍妙な掛け声を発しながら、ぺたりと猫みたく上体を前へ投げ出した格好で背筋を伸ばした。白い指先がシーツの上で痙攣じみて蠢く様子を、上平は半ば呆然と眺めやった。
 下恵は伸ばした身体を屈曲させて、こきこきと奇怪な音色を紡ぎ出していく。人間には幾つ関節があるんだっけ、と記憶の引出しを浚いながら、上平は辛抱強く待ち続けた。
「あーすっきりした……あたしってば、かしこまった態度とか敬語とかには慣れてないもんで、すぐ肩が凝っちゃうんですよ」
「は、はあ……そうなんですか」
「あはは。それじゃ無礼講のお許しも出たって事で、さっそく」
「ぶ、無礼講?」
 勝手が違う会話のテンポに戸惑っている上平の肩を、ばしばしと気安げに叩くと、下恵はシーツの上へ寝転がった。左右の肘を器用に使って、あぐらをかいた格好の上平へと「匍匐前進」してくる。
「あららら、やっぱり縮んじゃってるし」
 おあずけを食らって久しい上平のペニスは、半透明のピンク色を呈したゴムの皮膜の中で萎えてしまっていた。上平は何とも言葉にし難いやるせなさが込み上げてくるのを感じながら、
「誰のせいなんでしょう?」という台詞を必死に噛み殺した。
 そんな上平の思いを知ってか知らずか、下恵は力のないペニスを右へ左へと突き転がしながら、楽しげな口調で言葉を続ける。
「そういえば最近はコンドームが百円ショップなんかでも売られてるんですよね。古き良き時代の『明るい家族計画』が懐かしいわ。ところで、コンドームって元の6倍以上伸びないとダメって法律で決められてるの知ってました? あ、やっぱり知らないですか」
 あれやこれやと言い散らかしながらも、下恵の指は上平の雁首をしっかり擦り立てている。ゴム一枚を隔てての愛撫ではあったが、うなだれていたペニスは少しずつ力を取り戻し始めた。
「ところで相談があるんですが上村さん」
「はい、何ですか?」
「いつもならこのままフェラでもしてるところなんですけど、今日はゴムつきでしょ。これの味、好きじゃないんで……」
 そう言いながら、下恵はペニスの根元についた袋を指し示す。
「……こっちの方で勃たせちゃってもいいです?」
 上平にしても異存はなかった(というか興味をそそられた)ので頷いて応えると、下恵は半勃ちのペニスを軽くしごきながら、もう一方の掌で陰嚢をやわやわと揉みしだき始めた。袋の中に収まっている一対の玉を刺激された上平は、あまり馴染みのない独特の感覚が下腹へと浸透してくるのを感じた。
「あたし、たまたま触ったりするの好きなんですよ。これってば、すごくマニアックなパーツだって気がしません?」
「はあ……でも生まれつき持ってるモノなんで、そんなには」
「あはは。そーでした」と下恵は苦笑しながら、少しずつ縮まって皺を深めていく陰嚢に指を沈ませると、左右の睾丸をデリケートな手つきで弄び始めた。この滑稽な器官を好きだと言ったのは嘘ではなさそうで、下恵の指は睾丸のみらず、奇妙な弾力を備える輸精管やら、玉の後ろにへばりついている頼りない副睾丸まで、実に念の入った調子で責め立ててくる。
 下恵はペニスの根元に軽くキスすると、そのまま陰嚢へしゃぶりついた。表面に刻まれた皺を舌で引き伸ばし、睾丸を交互に袋ごと頬張っては舐め回す。玉と玉の間に舌先を差し入れてはそよがせ、左右のしこり具合を比べるかのように舌を押しつける。
 袋と玉がすっかり唾液に浸されて強張る頃には、上平のペニスは以前の硬さを取り戻していたが、下恵はそっちの事などもう忘れてしまったかのように、両の掌で左右の睾丸を柔らかく包み込んでは引き伸ばしつつ、楕円形のボールとその風変わりな付属物を、飽く事なく舐め回し続けた。
 妙に危うげな快感に追い立てられて、上平のペニスがコンドームの中でびくりと跳ねる。これほど徹底した袋への愛撫を受けたのは初めてだった。上平は下恵の頭にぽんと掌を置いて、
「あのー奥さん、スピード違反です」
 はたと我に返った下恵は、きまり悪げに鼻の頭を掻いた。
「あれれ……もう、おっきくなってたんですね」
「いやはや、とんだお手数を。大変結構なお手前でした」
 名残惜しげに陰嚢から唇を離しつつ、下恵は身体を起こして上平に擦り寄ると、お互いの額をこつんと軽くぶつけ合わせた。
「それでは攻守交代。よろしくお願いしますよ、上村さん」

 肘をついて四つん這いになった下田下恵は、請われるままに尻を突き出した。股の間から後ろを覗いた拍子に、上平と目が合った。冗談めかせて下恵が手を振ると、上平も変に嬉しそうな表情で手を振り返してくる。何だか無意味にノリがいい。
「……って、いつまで手振ってる気ですか」
 放っとくと止めないかも、と危惧した下恵のツッコミを受けて、上平はぴしっと表情を引き締めつつ、両手を尻へと伸ばしてきた。尻肉を揉み回しながら親指の先で秘裂を左右に押し割ると、膣からこぼれ出た半透明の愛液がクリトリスまで流れ伝っていく。親指が下恵の小さな花びらの内側へより深く滑り込むにつれ、あふれ出る愛液の分泌量は増えていった。
「奥さんのこれ、大きいですね。ウチのは小さいんですよ」
 そう言って上平は舌を伸ばすと、控え目な印象の陰唇とは対照的に膨れ上がった下恵のクリトリスを、舌先でそっと転がし始めた。愛液の皮膜を丁寧に舐め取りつつ包皮を剥き上げる舌遣いに、下恵は頬をシーツに擦りつけながら悦びの声を漏らす。
「そっ、そんなに剥いたら……くひぃ!」
 包皮による保護を失った敏感な突起を、根元から先端まで上平の舌がまんべんなく掃き上げていく。痺れにも似た鋭く激しい快感が股間から脳まで走り抜けては弾けて、下恵は陶然と身を震わせる。その反応を見て取ったのか、上平は押し広げていた陰唇を放すと、今度はクリトリスへと指を這わせてきた。フード状になった包皮の上端を引っ張って突起をすべてあらわにすると、もう一方の指先で根元をくすぐるように擦り回す。
「そ、そこばっかり……ひう、あ、あああ、あっ!」
「ここ、いいですか? もう何回か軽くイッてるみたいですけど」
 間断ない責めに追い詰められて、下恵は息も絶え絶えに喘いだ。はち切れそうなほどに膨れ上がったクリトリスがじんじんと疼き、下恵の意識を中途半端な絶頂へと何度か押し上げる。上体をシーツに突っ伏して快楽に悶えながら、ついに下恵は堪え切れなくなって挿入をねだろうとしたが、
「あ、あ、あ……そう、それっ」
 その願いを読み取ったかのようなのタイミングで、上平のペニスが下恵の中へと突き込まれる。下恵は半開きになった唇から悦びの吐息をこぼしてペニスを受け入れながら、波打つ膣肉を押し分けて進んでくる逞しい勃起の感触を、うっとりと味わった。
「ああん……上村さん、今の挿れ方、すごく素敵」
「欲しいときに欲しいものを、がモットーですから」
「もうっ、ほんとバカなことばっかり……んふ、う」
 ゆっくりとした抽送を繰り返しながら、上平の掌が背筋をそっと撫でてくる。普段なら別に何ということもないような感触が、今は不思議と心地よかった。
 下恵は後ろから貫かれる体位をしばし楽しんだ後で、
「あ……上村さん、ちょっとお願いが」と、繋がったままの格好で告げた。上平は律儀に腰を止めて、下恵の言葉を待つ。
「あのですね。下のベッドだと天井に頭ぶつけちゃいそうなんで、まだやったことないんですよ騎乗位。いいですか?」
 すると上平は笑って「もちろんいいですよ」と頷くと、下恵の膣からペニスをずるりと引き抜いて、ベッドの上へ寝転がった。下恵も起き上がって後ろへ向き直り、膝立ちになって上平の腰を跨ぐ。
 ペニスにぴっちりと吸着したコンドームには、白みがかった愛液が粘りついている。ずいぶん感じてたんだな、と下恵は思った。
「それでは、いただきますよ」
「どうぞ、ごゆっくり」
 間の抜けた合いの手を受けながら、下恵は硬く張り詰めたペニスの幹に両手の指を絡めて固定すると、少しずつ腰を下ろしていく。亀頭は濡れた花びらの間を滑って膣口に到り、ほころんだ肉穴からこぼれる真新しい蜜を被りながら、下恵の中へと潜り込んできた。
「……すごい、上村さんの……こんなに、長い」
 太さはそれほどでもなかったものの、上平のペニスは丈が長く、下恵の膣道を難なく挿し通して、いちばん奥深い場所まで届いた。ふたりの体位が騎乗位ということもあって、亀頭は膣の底、丸い瘤のような子宮口を確実に圧迫してくる。下恵は腹を圧し上げられるような重い快感を覚えながら、ペニスを根元まで膣に収めた。
「こっちの方も大きいんですね」
 そう言いながら上平が指を伸ばしたのは、ぴんと上向きになった下恵の乳首だった。やや小さな乳房の中で目を引く大きな乳首は、よく見ると乳輪ごと膨れ上がっている。乳輪から乳首にかけて指で引き伸ばされた下恵は、そのまま引き込まれるように上平の胸の上へと倒れ込んだ。
 乳首を弄られるにまかせて、下恵は上平の首筋へと吸いついた。キスマークが出来るのも気にせず肌を吸い立てては、伸ばした舌で汗を舐め取っていく。上平が乳首や乳輪を圧し潰すように強く揉みしごくと、下恵はお返しとばかりに首筋へ甘く歯を立てた。すると今度は上平の手が結合部へ滑り降りて、
「ひあっ、あ……ああっ! また……それっ」
 興奮に肥大した下恵のクリトリスをこねくり回す。下恵はびくりと身を震わせて跳ね起き、上体を反らせて喘いだ。クリトリスと膣から生み落とされる、それぞれ異なった快楽に駆り立てられた下恵は、悦びに押し流されてしまいそうな身体を何かに繋ぎ止めようと必死に手を伸ばす。下恵と上平の指先が期せずして触れ合い、両者は互いの両手指を蛇のように絡めた。
 繋がり合う掌の感触に少し安心したところを、
「やあっ、そんな……いきなり、んあ、あ、ああっ!」
 上平が唐突に腰を突き上げてきた。両手を掴まえられて身動きが取れない下恵の身体が、小刻みなリズムで上下に弾んだ。ペニスの幹を咥え込んだ膣口からは、いつになく濃い色と匂いを含んだ愛液が絶え間なく垂れ流れ出て、コンドームのみならず上平の茂みまでも濡れ光らせている。
「こんな、すご……ぜんぜん違う、すごいっ」
 夫とはまったく形状の異なるペニスによって責められる下恵は、違和感とともに新しい種類の快感を覚えた。上平のペニスは幾らか太さに欠けていて、膣に詰まった肉を亀頭で押し広げられたり雁首で肉襞を掻き回されたりする感触はそれほど味わえない。しかし幹の長さは膣を入口から奥まで貫いて余りあるほどで、子宮の扉へと浴びせられる容赦ないノックは、下恵を経験したことのない異質な悦楽の渦中へと引き擦り込んだ。
「当たってる……いちばん奥に、ごつんって……ああ、あんっ!」
 開発されたばかりの感覚なので、下恵はその悦楽をコントロールすることが出来ない。啼き喘ぎながら腰を擦りつけ、新しく生じた肉の悦びを少しずつ高みへと近づけていく。思い出すように上平が前後に腰を揺すると、腫れ膨れ上がったクリトリスが肌と恥毛の間で圧し潰されて、馴染み深い刺激が下恵の愉悦に拍車を掛ける。
「そろそろ限界ですか?」と、呑気な口調で訊いてくる上平。
「そ、そんなの……さっきからずっとですっ」
「それは失敬。では、お言葉に甘えて……」
 上平の腰遣いが更に高まった。絡み合っていた掌を放して下恵の腰を手で抱え込むと、子宮口をこじ開けんばかりに強く圧迫を繰り返す。下恵は爪先をシーツに食い込ませながらいきみ、膣肉を収縮させてペニスを貪欲に絞り上げる。
「もうだめっ、もうだめっ、もう……だめぇ!」
 爆発的に膨れ上がった快感は、下恵を速やかに追い詰めていく。強過ぎる刺激に意識が白く濁り始め、身体が浮揚しているかのような錯覚が生じる。甘やかな悦びの中に残っていた理性の一片が溶け崩れたその瞬間、下恵は今までになく深い絶頂へと到った。
「……イっちゃう、イっちゃうようっ!」
 感極まった嬌声と共に、下恵の秘裂からは透明な液体が迸った。その液体は断続的に噴き出して結合部を流れ伝いながら、ベッドのシーツへと染み込んでいった。
 人んちのシーツ濡らしちゃったなあと、下恵はぼんやりした頭で考えた。まだ震えの止まらない身体を深呼吸で落ち着かせながら、少しずつ醒めていく絶頂に名残を惜しむ。そして下恵は、
「あれ、上村さん……イってないんですか?」
 膣内のペニスが、依然として硬さを保ったままなのに気づいた。訝しげな眼を向けてみると、上平は申し訳なさそうに微笑んだ。
「実は僕、遅漏でして」
「ち、遅漏って……上村さん、あの、だからちょっ……やぁん!」
 すみませんすみませんと言いつつ、また上平が突き上げてくる。
 上村・下田家の夜は、まだまだ長く続きそうだ。

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